2014年7月8日火曜日

撮影のエピソード:マイケル・ジャクソンとの遭遇

  撮影の仕事をしていることで、よく知人からスターに会えていいね、と言われることがあります。TVやスクリーンを通してしか見ない彼らの素顔の一部をかいまみれることは、この仕事のプラスアルファーのちょっと楽しい特典と言えますね。

 マイケル・ジャクソンのCM撮影の時のエピソードをひとつ。アメリカでの撮影時には、スター用に特別な部屋やトレーラーが用意され、そのなかには、彼らができるだけ気持ちよく撮影に集中できるようにと、花が飾られ、彼らの好きな飲み物、スナックなどが準備されます。マイケル・ジャクソンの様な大スターのCM撮影の場合、撮影時間が限られているため、スターのメイク、衣裳が整い次第すぐ撮影ができる体制を整え、スターがスタジオ内に現れるのを今か今かと待ちます。
 
 このCMは、広大な砂丘で歌い踊っているマイケルが、砂漠の強風によって細々な砂となりTVの画面に吸い込まれていくというコンセプト。マイケルが到着して、メイクに入ったという連絡。スタジオ内の巨大な砂丘のセットの周りでは、カメラ、照明など最終調整にスタッフの緊張が走ります。しかし、メイクも衣裳も終わっているはずの時間になったにもかかわらず、マイケルは、いっこうに現れません。ヘアースタイリストが彼の髪を切っているので時間がかかるとの情報が入り、スタジオ内は今まで張りつめていた緊張が途切れた空気を感じました。

 巨大な砂丘のセットから離れた反対側にあるスタッフ用に用意されているスナックのテーブルの近くに立っていた私ですが、ふと気づいたら、衣裳を着たマイケル・ジャクソンがこちらに向いて歩いてくるではないですか!多くのスターは取り巻きの人達と一緒にスタジオに入ってきますが、彼は一人でひっそり現れたので、誰も彼が入ってきたことに気づきません。

 すーっと、私の近くを通るときに、マイケルは"Hello"と彼の”あの”ソフトな声でスマイルをしてくれました。マイケル・ジャクソンとの数秒の遭遇!思いがけないマイケルの“ハロー”に、呆然としている私を通りこし、マイケルは、スタッフ用のスナックの野菜スティックからにんじんを数本を手に取りました。マイケル・ジャクソンがにんじん?彼のために用意された部屋には、スタッフ用よりもっとおしゃれなスナックが用意されているのに。。。

 マイケルがそこにいると分かった助監督が慌てて飛んできて、彼を監督のところへ連れて行きました。監督と撮影前の打ち合わせ、その間も握っていたにんじんを食べながら、じっと監督の話を真剣に聞いていたマイケル。打ち合わせが終わり、さあ本番!砂丘のセットの上に立ちました。音楽が流れ出すと、か弱そうなマイケルがスター・マイケル・ジャクソンに変身したのです。近くでみている我々は、マイケルのパワーとエネルギーに鳥肌がたつくらいでした。完璧なパーフォーマンスで数回のテイクで撮影は終了。マイケルは、"Thank you, everyone" (皆さん、ありがとう)と、もとのソフトなマイケルに戻り、優しく手を振ってスタジオを後にしました。

 その後、色々なトラブルなどの末にこの世を去ってしまったマイケル・ジャクソン。多くのスターと撮影を通して会いましたが、カメラが回り始まった時の変身ぶりと、全身から解き放たれるパワー。やっぱり、マイケル・ジャクソンは、スーパースターでした。