2014年8月14日木曜日

撮影エピソード:思いやりの人、トム・クルーズ

 映画「ラストサムライ」でプロダクション・スーパーバイザーとしての仕事を引き受けたときの一番のチャレンジは、ハリウッドのメインスタッフからの要望を日本の撮影でどのようにスムーズに実現するかでした。特に、ハリウッドにおける規定水準をどのようにクリアーできるか、また、クリアーにできない場合は、どのように対処するかなど、多くの項目に、松竹京都映画のプロデューサーや日本のスタッフと頭を悩ませながら撮影準備に励む毎日でした。

 半年に及ぶ撮影準備も無事に終え、姫路の圓教寺での撮影の初日を迎えました。拍手で迎えられたトム・クルーズ。エドワード・ズイック監督が、カメラマン、美術監督などメインのスタッフをトム・クルーズに紹介して、笑顔とともに握手を交わしていきます。そして、私の名前が呼ばれました。ズイック監督が、「プロダクション・スーパーバイザーのKyokoです。この撮影がスタートできるために、彼女が大変よく頑張ってくれました。」と紹介しました。トム・クルーズは、その言葉をうなずきながら聞き、手を差し出し、握手しながら「Thank you, Kyoko」と私の目をしっかり見て微笑みながら言いました。

 今まで、多くのハリウッドスターと握手し挨拶しましたが、私の名前を言った人は今だかつていませんでした。日本人の名前で、発音しにくい、覚えにくい、などの理由で名前まで言わなくて当然と思っていたので、初めてトム・クルーズがゆっくり正しく発音して”Kyoko”と名前を言ってくれたことに感動しました。

 日本でのトム・クルーズの移動手段は、ヘリコプターと車でした。どこで情報を得たのか、多くのファンがヘリポート近くへ通じる道に、彼を一目見たさに押し寄せました。多くのファンが集まっているのを見たトム・クルーズは、乗っていた車からわざわざ降りて、「集まってくれてありがとう」とファンにメッセージ。それで終わらず、仕切られているロープのところまで歩いていき、ロープの外にいるファンひとりひとりに握手をし始めました。ヘリコプターが待っているにも関わらずその時間は、30分以上に及びました。
 
 トム・クルーズの行動は、彼のファンを思いやる心からの証でした。それと同様、私の名前を正しく言ってくれたことも、彼の私という相手を思う気持ちの表れでした。スーパースターのトム・クルーズを人間としても尊敬できる出来事でした。